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発信者の電話番号開示を認める省令改正により、開示請求者の利便性は向上するのか

 インターネット上で行われる匿名の誹謗中傷が社会問題化する中、総務省が今夏にも省令を改正し、開示項目に発信者の電話番号を加えることを検討しているようです。

産経新聞 2020.6.19付け記事より引用
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 会員制交流サイト(SNS)で誹謗(ひぼう)中傷を受けた女子プロレスラー、木村花さん(22)が死去するなど、インターネット上で行われる匿名の誹謗中傷が社会問題化する中、被害者が発信者の電話番号の開示を求めることができるよう、総務省が今夏にも開示項目を定めた省令を改正する方針を固めたことが19日、分かった。
 高市早苗総務相が同日の記者会見で、省令改正の意向を安倍晋三首相に伝えたことを明らかにした。高市氏は「省令改正で対応できるものに関しては、この夏を目標にしたい」と述べた。
 木村さんの死去を受け、総務省は誹謗中傷の書き込みをした投稿者の特定を容易にし、悪意のある投稿を抑止するための制度改正を急いでいる。7月には有識者検討会が中間取りまとめを行い全体像を示す方針。
 制度改正にはプロバイダー責任制限法の改正が必要でまだ時間がかかるが、国会手続きが不要な省令改正であれば総務省の判断で可能なため、省令部分だけでも先行して改正する。
 具体的には、発信者の情報を開示する際の項目を規定した省令で、現状は発信者の氏名や住所、IPアドレスなどの情報に限定されているが、ここに電話番号を加え、発信者を見つけやすくする。
  SNSなどで誹謗中傷を受けた際、被害者が損害賠償を請求するには発信者の特定が不可欠。プロバイダー責任制限法の規定では、被害者がサイト運営者などに発信者情報の開示を求めることができることになっている。
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https://www.sankei.com/economy/amp/200619/ecn2006190039-a.html

 いままでは、発信者情報開示請求手続により発信者(誹謗中傷の相手方)を特定しようとする場合、おおまかに


【ステップ1】SNSや匿名掲示板運営者〔コンテンツプロバイダ〕に対して、発信者のIPアドレス及びタイムスタンプの開示を求める仮処分の申立を行う。 (→開示されたIPアドレスから発信者が利用した通信会社〔アクセスプロバイダ〕を特定する)


【ステップ2】特定したアクセスプロバイダに対して、発信者の契約情報(氏名、住所等)の開示を求める発信者情報開示請求訴訟を行う。


という2つのステップが必要でした。ステップ1は「仮処分の申立」という簡易な手続きが利用できるものの、どちらのステップも裁判上の手続きとなることから、費用の面でも発信者特定までに要する時間の面でも、被害者の負担は重く、あまり使い勝手のよい制度とは言えませんでした。

 昨今のセキュリティ意識の高まりを受け、SNSではユーザー認証や二段階認証用にユーザーに電話番号データを保持している場合も多いことから、省令改正により電話番号の開示が認められるようになると


【ステップ1’】SNSや匿名掲示板運営者〔コンテンツプロバイダ〕に対して、発信者の電話番号の開示を求める仮処分の申立(または発信者情報開示請求訴訟)を行う。 (→開示された電話番号から発信者が契約する電話会社を特定する)


【ステップ2’】特定した電話会社に対して、弁護士会照会(23条照会)制度を利用して発信者の契約情報(氏名、住所等)の開示を請求する。


という発信者特定のための別ルートが開けることになります。弁護士会照会(23条照会)制度は、裁判所を経ずに行える簡便な手続きですので、費用抑制の面でも発信者特定までの時間短縮の面でも、被害者にとって光明となりそうにも思えます。

 ですが、はたしてそうなのでしょうか。


 ステップ1で「仮処分の申立」という簡易な手続きが利用できる理屈は、アクセスプロバイダがどのユーザーに対してどのIPアドレスを割り当てたかというログを保存している期間が限られており(概ね3ヶ月程度と言われています)、ログが消去されてしまうともはや発信者の特定が不可能となってしまうことから、緊急性がある(=保全の必要性がある)というものです。


 そうすると、省令の改正により電話番号の開示請求が可能になると、理論上は【ステップ1’】で仮処分の申立は使えず、手間と時間の掛かる発信者情報開示請求訴訟を行わなければならない、ということになりそうです。電話番号が開示されれば【ステップ2’】のルートを利用できるため、ログ保存期間の問題(=保全の必要性)が無くなってしまうからです。


 もし、筆者が懸念するように【ステップ1’】で仮処分の申立が使えないということになれば、トータルであまり被害者の負担は軽減されないということになってしまいます。また、コンテンツプロバイダが電話番号を保持していなかった場合に備えて【ステップ1】と【ステップ1’】を同時並行で進めるとなれば、かえって被害者の負担が増加するというオチにもなりかねません。

 上記産経新聞の記事によれば、「省令部分だけでも先行して改正」とのことですので、筆者が懸念するような事態は後続する法改正で手当てされるのかもしれませんが、一日もはやく法整備がなされ、被害者が費用面や時間面で発信者特定を断念せざるを得ないという状況が改善されることを望みます。


 ネット上の誹謗中傷でお悩みなら、新横浜のタングラム法律事務所にご相談ください。